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やり場のない長文

「エラベルノ」はどのくらい選べるのか?

神は言われた。「ペンあれ。」こうして、ペンがあった。
神はペンを見て、良しとされた。神はペン軸とペン芯を分け、
ペン軸をボディと呼び、ペン芯をリフィルと呼ばれた。
夕べがあり、朝があった。第一の日である。

クーゲルシュライバー創世記 1. 3-5

 

「エラベルノ」の良さとリフィルの互換性

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図1 エラベルノ近影(細めクリヤー、ゲル0.7青)

 コクヨが昨秋発売したボールペン「エラベルノ」は、一見地味なプラスチックボディの単色ボールペンでありながら、軸(ボディ)と芯(リフィル)を選んで使うというマニアックさで、「こだわりの文房具を使いたいけど、わたし新人だし、あまりファンキーなのを職場に持ち込んで悪目立ちして先輩にシメられたら嫌だし……」という隠れブンギアン御用達の、マリア観音みたいな地歩を着々と固めている。

 かくいう私もご多分に漏れず、実物を初めて見たときには「なんか……フツーって感じ?」と思(いながら買)ったんだけど、手元において使っているうちに、そのデザインのさりげない巧みさがじわじわ効いてきた。そのうちに、「この商品はこの先どう展開してゆくのだろう……」という妙な気持ちを抱くようになった。文房具とのつきあいなんて、使い心地が良いか悪いかでドライに判断して終われるはずなのに(ああ、はずなのに)、他人事ながら売り物としての将来性が気になってくるんである。こういうのをチャーミングと呼ぶのかと思う。

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図2 エラベルノのチャーミングなところ
A. どことなくペリカンのアイツを思わせる曲線のクリップ。軸の後端からクリップ先端までの切れ目のない一体感とか、ノック部のつけ根が、3重にふち取られながら斜めに流れてるところなんかも、この価格帯では類例のない美しい処理だと思う。
B. リフィル表面にプリントされた替芯の種類表示を見せる窓。クリヤータイプだとほぼ意味が無いので、将来的に不透明なボディをリリースする計画があるものと期待されている。
C. 「Dグリップ」と名付けられた、グリップパーツに切り出された面。細かい溝が切ってあって指の滑りを防ぐ。ナメクジの腹……というか足……に似ててカッコいい。カッコいいだけじゃなく、実によく効く滑り止めである。ここに親指を置いても良いし、人差し指を置いても良い。

 

 現行のラインナップでは、替芯のインクの種類は低粘度油性(ex. ジェットストリーム)と染料ゲル(ex. エナージェル)の二つで、線種(ボール径)は 0.5 mm と 0.7 mm の二つである。選択肢を絞った中で、かなり書き味の差をつけていて、油性もゲルも太字の方は滑らか方向に大きく振った仕上がりになっている。細字の方は、同カテゴリの他社のリフィルと比べると少し滑らか寄りかな? と思うくらいで、安定感がある感じ。

 これはこれで必要十分なんだけど、せっかく好みのグリップが使えるんだから、もうすこし筆記抵抗の強いペン先とか、水性や顔料ゲルのインクも試せたらいいなぁと思わずにいられないのが、ブンギアンの信仰心というものである。とはいえリフィルのデザインからいって、近々にインクの種類が増えるということもなさそうだし(ボール径や色はともかく)、ここは一つパードレ(メーカー公式)の到着を待つことなく、自分たちで信仰を守る決意をしなければと思う。

 そこでほぼ同型のリフィルを使うペンを集めて、エラベルノの軸に入れて使うことが出来るか試してみようというのがこの記事の趣旨である。今回使うペンは以下の5つ。ここで詳しくは説明しないけど、C-300系と呼ばれる、オートの水性ボールペンを代表とするサイズの替芯を使っているペンです。

A. 顔料ゲル枠:ゼブラ サラサクリップ(青 0.4 mm)
B. 水性枠:オート ギザ(C-305 ブルーブラックを入れて使用中)
C. 消せる枠:三菱鉛筆 ユニボールR:E(スカイブルー)
D. 修正ペン枠:ぺんてる パワコレ
E. 最近人気のやつ枠:ぺんてる エナージェルインフリー(ターコイズブルー

 列記するだけじゃわかりにくいというか、「あーアレね」と思ってもらいたいので写真を載せる。

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図3 リフィル・スワッピングに参加するペンたち
 一応商品ロゴをこっちに向けたんだけど、見づらい。上からパワコレ(修正ペン)、サラサ(顔料)、R:E(消せる)、エラベルノ、ギザ(水性)、エナージェルインフリー(人気)。見映え優先で撮ったあとこの文章を書いているので、上に挙げた順に並んでない。

 ついでに中身のほうも見てもらいましょう。

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図4 リフィルたち
 並び順は図3と同じ。エラベルノのリフィルは首の部分が透明のパーツになっていて、インク流路がくびれてるのが見えてカッコいい。どれもだいたいのサイズは一緒なんだけど、オートのやつ(右から二つ目)の首の部分は明らかに形状が違うのがわかると思う。

 結果は以下の通り。

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図5 エラベルノ軸での使用可能リフィル
A. サラサクリップの芯は使用可能。スタンダードな見た目の替芯が入ることで、エラベルノの普通さ(ステルス性能)が五割増しくらいになった気がする。
B. C-300系の由来であるオートのC-305(ブルーブラック)は、替芯の尻の部分がつっかえてしまって入らなかった。同じC-305の黒で試すと尻の部分は入ったんだけど、どっちにしろ首の太いパーツにバネが引っかかって入り切らないので、使用不可能。
C. フリクションの対抗馬ことユニボールR:Eは問題なく使用可能。ちなみにフリクションも似たような形のリフィルだけど、ペンチップが太いせいでリフィルがボディに収まらず、使えません。しかしこの白い軸に水色は似合うな……。
D. パワコレの芯も尻が入らなくて使用不可能。白も似合いそうだったんだけど。
E. エナージェルの芯は、首パーツを胴(インクタンク)に差し込んだ部分の膨らみが大きい作りになっていて、そこがつっかえてしまって使用不可能。染料ゲルインクは純正があるので別に必要ないんだけど、今期の覇権ボールペンことインフリーのターコイズブルーを入れたらきれいかなと思って試した。

 二勝三敗ということで、意外と選べないな……みたいな印象をもたれかねない結果になってしまった。どっちにしろ純正じゃないんだからいいようなものだけど、ぜひとも欲しいところだったゲル顔料インクのサラサと、消せるインクのR:Eが普通に使えるというのは、いい知らせなんじゃなかろうか。

 しかし消せるインクの替芯がよそのガワに入ってるというのは、おそらくトラブルのもとである。だいたい字消し用のラバーがついてないし……。

 でもまだサラサがある。書き味を替えてみたいとか、顔料インクで耐候性の高い文字を書く必要がある人には、流通量もバリエーションも膨大なサラサクリップシリーズのインクを使えるのは、いいハックになるはずである。入手性が高いので、補充の心配がなくなるのも良い。エラベルノって、街中の大きめの文房具屋か、イオンぐらい強力な小売店じゃないと売ってないよね。少なくともうちの近所のツタヤには無い。サラサクリップなら、峡谷の村々を走る移動スーパーにも積まれているんじゃないかと思う。

 

 と、ここまで書いてきて、ふつふつと思い始めていることがあるのだけど……

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図6 この二人って……

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図7 なんか似てません?

 エナージェルインフリーのボディとエラベルノのボディ(クリヤー)が似ているのだ。

 

エラベルの兄、「エナージェルインフリー」

 エナージェルインフリーは、滑らかで濃い筆跡なのに速乾性が高い、という三拍子そろった性能で、定番実用ボールペンの一角を占めていた、ノック式エナージェルの新モデルである。形状はそのままに透明ボディにした、というものなんだけど、今年2月の発売以来大人気で、どの売場でもターコイズブルーだけ売り切れたりしている。限定生産ということだけど、しれっとレギュラー化してほしいくらいである。

 ノック式エナージェルは過去にも、「ネコ柄」や「クレナ」という、全面プリントでファッション性の高いデザインにしたボディを出していた。しかしインフリーでは、ほとんど印刷面のない透明ボディにして、筒に着色したリフィルを見せるという、従来のイメージを大きく覆すデザインを採用し、注目を集めた。これまで国内向けには黒赤青しかなかったインク色も、ブルーブラック、オレンジ、ターコイズブルーという絶妙なチョイスの三色が加えられている。それぞれの役割的に、黒赤青のオルタナティブという位置づけだと思うんだけど、ピンクではなくオレンジ、緑ではなくターコイズブルー、というのは素晴らしい選択だと私も思う。なぜ素晴らしいかというと、グリーンイグアナ(オス)の婚姻色と同じだからである。

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図8 婚姻色のグリーンイグアナ(オス) Photo By LoggaWiggler
 グリーンイグアナのオスは普段は若葉のような黄緑色(と部分的に黒)なんだけど、繁殖期が来るとトルコ石のような青と華やかなオレンジというすごく目立つ色になって、メスにタフさをアピールする。インフリーのターコイズブルーはかなり緑寄りなので、こうして見るとあんまり似てないけど……。まぁいいか。

 グリーンイグアナのことはともかく、エナージェルインフリーのボディは、エラベルノのクリヤーボディのような透明感で、各部をわずかに大きくしたような作りなので、もしかすると同じリフィルを試したら入るやつが結構あるんじゃなかろうか……と思ったのだ。試してみた結果がこちら。

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図9 エナージェルインフリー軸での使用可能リフィル
 なんとほとんどのリフィルが使える。D. パワコレは同じメーカー(ぺんてる)だし、ペン先の構造も一緒なので行けるかと思ったんだけど、駄目でした。リフィル全長が 3 mm ほど大きくて、一応入れられるけど先端が出っぱなしになってしまう上に、ノックも出来ない。残念。

 見た目の良さでいうと、サラサやR:Eのような白っぽい半透明のリフィル(AとC)は、エラベルノに入れた場合のほうが、ふわっとした雰囲気が出て良いと思う。インフリーの銀パーツは主張がけっこう強いので、ガツンと濃い色のリフィルが見えてる方が合う。エラベルノのリフィルなんか、よその子とは思えないぐらい馴染んでいる。オートの金属パイプリフィルも、むやみにメカメカしくてなかなか似合う。

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図10 インフリーのボディに似合うリフィル

 思わぬ形で、エナージェルのボディ設計に秘められた優秀さが明らかになってしまった。インフリーのボディをニセエラベルノとして使うというトリッキーな運用が、隠れブンギアンの間で一瞬流行るかもしれない。

 実を言うと、エラベルノは長めのグリップとリフィル覗き窓の兼ね合いからか、リフィル交換のときに開けるネジがボディ先端側にあるのが気になっている。これだと、ボディの中ほどにネジがあるペンより力を掛けにくい(滑り止めの溝で緩和しているけど)し、ペン先の見た目もごちゃっとした感じになってしまう(不透明の素材を使えば解決するんだけど)。その点インフリーのボディは、グリップの上端にネジがあって開けやすく、ペン先は銀ー色でスッキリしていて好印象である。

 エラベルノには素晴らしいグリップ(しかも選べる)と、美しいノック部〜クリップの形状という長所があるものの、作りがややタイトで、他社製リフィルへの応用性という観点では、エナージェルのボディに軍配が上がるということになった。文具教カスタム派の教理からすると、全く同じ価格帯に、強力なライバルが隠れていたようなものである。なんならエナージェルのほうが純正リフィルは安い。こういう非公式な応用でライバル登場とか言われても、どっちも困るとは思うけど。

 

エラベルの王、「リバティ」シリーズ

 最後にぜひ書いておかねばならないのは、「ボディとリフィルを選ぶ」というコンセプトの先達にあたる、オート・リバティのことである。リバティは万年筆のような外観の、主に水性ボールペン(ローラーボール)で、発売当初は700円の軸(細・中・太)と300円の替芯(水性、油性、ゲル、筆ペン)を選んで使ってね、という案内付きの、大きな専用什器で陳列されていた。

 インク色も、黒赤青ブルーブラック(筆は黒のみ)、というラインナップで、あまり多色展開はしていない。あくまで使い心地の良いメイン筆記具の座を狙っているわけである。エラベルノでなされた提案の本質は、リバティで用いられたアイディアを普及帯のボールペンに落とし込み、低価格化、カジュアル化すること、と解釈することもできる。別のメーカーなのでおおっぴらには言いにくいんだけども。

 その後、リバティと互換性のあるボディはシリーズ化して、デュード、オルカ、ジャズといった名前の新商品が、年に一種類ずつくらい作られたり廃盤になったりしながら、日本製ローラーボールの定番品としてしっかりと根づいている。

 わりと文具ブームの昨今にあってさえ、ローラーボールというカテゴリ自体があまり表立って話題に上らないという状況の中で、この商品ラインにこれだけ確固たる支持層があるというのは、凄いことだと思う。静かな巨人というか。去年なんか、ペン先の耐乾燥性が向上したということで、ついにノック式のボディまで出していた([O]eau(オー))。実に日進月歩なんである。

 今では一本1000円とか1500円のセット(水性・0.5mm・黒のリフィルが入っている)で売ってることが多いけど、地域の老舗の文房具店なんかでは、バラ売り当時の大型什器にリフィルが並んでるのを見られる場合がある。ふらっと入った文具店でそれを見つけると、「ここの仕入と客層はナイスだ……」と思ったりする。

 私が使っているのは、革巻きボディにシルバーキャップというだいぶヘヴィな見た目の「ギザ」です。1500円。革部分はリサイクルレザーというもので、革の裁ちクズを粉砕した繊維を樹脂(ラテックス)で固めたものらしい。辞書の表紙のような型押しビニールよりは革っぽさがある。斑点恐怖症のひとには見せられない雰囲気のペンである。イグアナの顎の下のひだの表面みたいでカッコいいと個人的には思う。

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図11 新旧選べるペン

 リバティシリーズのボディの良さは、基本的にキャップ式なので、先端側にバネを仕込んでおらず、ペン先の形状が違うリフィルも干渉することなく大体使える、というところにある。逆にボディ後端にはバネが仕込んであって、多少リフィル全長の違うものでも、この部分がバッファになることで入れられる場合がある(図12)。リフィルを変えても見た目が変わらないので、いちいち写真は載せないけど、この記事に出てくるリフィルは、すべてギザに入れて使えます。オート的にも、使い慣れた他社製リフィルを高級な見た目の軸で使うための商品として、リバティシリーズをおすすめしているフシがある。オートのリフィルもかなり良いものだけど、ちょっとお高いので、それこそエナージェルとかサラサのリフィルで使えると覚えておくと役に立つと思う。

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図12 ギザには若干サイズの違うリフィルも入る
A. フリクションノックの芯を入れたところ。ペンチップのサイズが違うので(E:右の金属部分がやや太い)ペン先がちゃんと出ないけど、いちおう収納できるし使える。
B. パワコレの芯を入れたところ。パワコレの芯はほかのC-300系より全長が長い(F)ので、エラベルノにもエナージェルインフリーにも入らないが、ギザには入る。
C. コントロール。これと見比べると、フリクションのペン芯は三角錐の途中でつっかえているのがわかる。
D. ボディの奥にあるバネを長時間露光で無理やり撮ったもの。太いバネが見える。

 価格帯も使用感もだいぶ違うので、エラベルノにハマった人が即座にリバティ系に手を伸ばせるかというと、難しいところではある……のだけど、少なくともリフィルに対する包容力ではダントツの商品が、今でもひっそりと(失礼)現役で売られているということを、エラベルノからの話の流れで書いておきたかった。いい感じで棲み分けて、シナジーが生まれると良いのだが。

 

選べるボールペンの将来やいかに

 と、いう感じで、さまざまな面で語られビリティの高いエラベルノ、将来が気になるペンだと思いませんか? 今年の秋とかにエラベルノ・シーズン2が来るのかどうかわからないけど、私は楽しみにしている。普通にボディとリフィルの色を増やすだけじゃなく、グリップの種類(素材・形状)を増やすとか、新色リフィルはいきなりノンコピー色を出すとか、いろいろ妄想するわけだけど、出されて初めて「そう言えば無かったねそういうの」と言いたくなるような、盲点を突く新展開を期待しています。

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図13 選べるペンたち