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日々是推敲

スコット・ウェイランドのたゆまぬ彷徨(2)

結成、デビュー、成功

若き日のスコット・ウェイランドとロバート・ディレオ(ベース)が、ブラック・フラッグのライヴ会場で意気投合するだか喧嘩するだかして出会い、直後に二人は同じ一人の女性と交際を持っていたことが発覚し、その後いろいろあった末、ふたりともフラれて女性はテキサスへ去ってしまうのだが、なんとなくふたりは女性の残していったサンディエゴのアパートメントに住み始め、やがて始めたバンドがSTPの母体である……というのが、巷間よく知られたバンドの創世神話である。のちにウェイランドの自伝で明らかにされているように、このへんの経緯は多少カラフルに盛った話らしいのだが、とにかくウェイランドとロバート・ディレオの出会いが始まりであることは確からしい。

ごく初期にはドラムスとギターはウェイランドの友人が務めていた(ウェイランドの自伝によれば、彼らと既に始めていた自分のバンドにロバートを誘い入れたということ)。彼らの脱退ののち、ドラムスはエリック・クレッツ、ギターにはロバートの五歳年上の兄で、すでにミュージシャンの道を半ば諦めて別の仕事をしていたディーン・ディレオを招き入れ、オリジナル・メンバーが固まった。それが1989年ごろのこと。ディーンが加入した当時のバンド名は「Swing」だったそうだ。Swing……。その後、Mighty Joe Young(同名のブルース・ギタリストがいる)という名前に変わったバンドは、サンディエゴを中心に活動を続けて徐々に人気を集める。時代も新しいバンドに飢えており、トントン拍子とばかりにレコード・デビューの話が持ち上がる。バンドは新進気鋭のエンジニアでありプロデューサーだったブレンダン・オブライエンのもと、デビュー・アルバムの制作にとりかかることになった。このアルバム「Core」はレッチリの「ブラッド〜」(めんどくさいのでいきなり略記)と並んで、オブライエンの出世作のひとつとなる。

ちょうどそのころ、マイティー・ジョー・ヤング氏から名義についてクレームがつき、デビュー直前になってバンドはまたも名前を変える。新しい名前の由来はもちろん、エンジンオイルを始めとした自動車用品メーカーSTPのブランドロゴ。今でも古着屋でみかけるアレである。Stone Temple Pilotsというのは頭文字を取るために特に意味なく単語を並べただけとのこと(Wikipediaに行くともっとひどい当て語候補が見られる)。この人たちはかくもバンド名に無頓着なのだ。のちのち出てくるVelvet Revolverとかいう真剣に考えた上でダサい的なバンド名に比べればまだマシだけど。Talk ShowとかArmy of Anyoneとかも大概である。真面目過ぎるというか、一周回ってユーモラスというか、ネーミング・センスにかけてはいっさいマジックを起こさない人たちだった。あるいは僕がカリフォルニア的な感性を理解できていないだけかもしれないですが。

 

Core(1992) 
Core

Core

 

 こういった心なしかユルい前史を持つわりには、STPのバンドとしての成功は早かった。ウェイランドの年齢に即して言えば、18-19歳(1985−86年)のときに組んだバンドが25歳(1992年)でデビューとなるので、極端に早熟というわけではない。しかしなにしろ、デビュー・アルバム「Core」がいきなり全米(Billboard 200)3位のセールスを叩き出している。同年に出たRATMのエポック・メイキングな1stが同じチャートで45位だったとか、同日(!)に出たAlice in Chainsの2ndにして名盤「Dirt」が6位だったというのを考えると、彼らの作品がいかに時流に乗ったものとして受け止められたかがわかる。

そしてこのときの「セールス先行」というイメージが、STPを「なんとなく尊重されにくいポジション」に終生押しとどめる原因のひとつになった。90年代前半の圧倒的勝ち馬(ジャスティス)ことグランジ・ブームに後乗りするように出てきた、偉大な先行バンド(とくにAlice in ChainsPearl Jam)の模造品、それもセルアウト野郎じゃないかと。今になってみればそんなのは論外の誤解だと言えるけれど、後追いファンである僕からしても、Alice in Chains先輩を抜いたのはちょっとやりすぎだったと思う。だって「Core」のいくつかの曲のサウンドは本当にそっくりなんだもん。そりゃ反感買いますよ。ロック・ファンとはかくも気難しいものなのだ。そしてバンド・マジックを──少しおおげさに言い換えるならロックバンドという形式における真の芸術を──同時代的に理解するのは、ときに難しいものなのだ。あえて並べて貼ることはしないので、比べて聴いたことがなくて気になる方は各自調べてみてください。

 

https://www.youtube.com/watch?v=8hhu-OyHqZM

Sex Type Thing

「あえーまえーまえー」としてあまりにも有名なファースト・シングル。のちのち明らかになる彼ら本来の持ち味からすれば、歪みが過度に硬質でグランジ・マナーに沿った録り音になっていて、こんなのが突然アリチェンより売れ出したらそりゃパクリバンドと言いたくなるよなという気持ちはそれなりに理解できる(もっとも、「グランジ」とかいうメディアの論理で勝手につけられたレッテルに乗っかって叩くダサさに比べればなんてことないとは思うけど)。とはいえ、気持ち重すぎなくらいもったりとタメ気味のリズムが醸し出す、妙にアーシーに身体の芯を食ってくるファンキーさ、そしてひねくれた勢いのあるヴォーカル、という彼らの特色は、この曲からでも十分わかると思う。それが前面に出ているかどうかは別として。

 

https://www.youtube.com/watch?v=qKUialUJZ4M
Plush

https://www.youtube.com/watch?v=uA4hSZ1Xy1g
Wicked Garden

「Core」からの続くシングル曲も、表面的にはいかにもポップ・バンドがグランジを取り入れてハードに振ってみましたという音像である。しかしなんというか、どれもこれもいかにも90年代MTVって感じのPVですね。むやみに病んでますっぽさがあって。そんな曲でもないと思うんだけど。「Plush」はグラミー賞ベスト・ハードロック・パフォーマンス受賞作。

 

https://www.youtube.com/watch?v=sT1DdO3SISg
Creep

あるいはこの曲のように、あまりにもアメリカ演歌的にレイドバックした良い曲がしれっと入っているのが、ヘヴィ好みのロック・ファンの神経を逆なでしたのかもしれない。いい曲なのになぁ。

ともあれ、プロフェッショナルなバンドとしてのSTPは、メディアの毀誉褒貶をはさみつつも、聴衆にはおおむね好意的に迎えられた。STPの大きな影響源の一つにAerosmithがあるが、そのギタリストであるジョー・ペリーは最も初期から惜しみない賞賛を向けたミュージシャンの一人である。「ディーンのギター・サウンドは人生でも5本の指に入るくらい好きだ」とかなんとか言ってたと思う(うろおぼえ)。「Core」のプロデューサーを務めたオブライエンは、前記「ブラッド〜」と「Core」の成功を買われてか、Aerosmithの次のアルバム「Get a Grip」のミキシング担当に招聘されている。ブレンダン・オブライエンも好きなのでなんかつい書いちゃうな。ブレンダン・オブライエンの話はこのくらいにします。

かくして彼らはロック・スターの座に上り詰めた。若くして成功を手にした人間の前に仕掛けられる罠が作動するまでには、まだしばらくの時間があった。


Purple(1994)
Purple

Purple

 

 STPの順調な成功譚は、このアルバムで早くもピークを迎える。彼らの音楽性の最も良い面はこの時点ですでに完成しつつある。Meatplow、Silvergun Superman、Army Antsといったヘヴィな曲にこそ残滓的にグランジ・サウンドが用いられているものの、それらも「レパートリーの一つ」という立場に抑えられていて、代わりにサイケ、オルタナ、ラグタイム、カントリー、といった多様な音楽の影響がぐいぐいと入り込んでいる。より振れ幅の大きいサウンドと、ユニークな楽曲と、フォーカスのしっかり定まったアレンジワークを兼ね備えた、きわめて質の高いロック・アルバムだ。麒麟に乗った赤ん坊が微笑んでこっちに手を振っている中国風のイラスト、という完全に意味不明のジャケットも、えもいわれぬ味があって良い。チャート・アクション的にはバンド史上最初で最後の初登場1位。

 

https://www.youtube.com/watch?v=Uzx26V4WDlA
Big Empty (MTV Unplugged)

アルバムリリースの前年に行われたMTV Unpluggedで初公開されたときの模様。のちに「Purple」からのファースト・シングルとなる。前作のCreepと同じく「静かに始まってサビでドカンとやる」タイプの曲だが、全編フォーキーなCreepと比べると、よりブルーに沈んだメロや間奏と、よりノイジーでラウドなサビという形でダイナミズムが強調されている。でもこの説明はアンプラグドじゃ伝わらないよな……。まぁいいか。僕はこの曲のサビを聴く度に、一人で行った野外フェスの夕方を思い出す感じがして好きである。

 

https://www.youtube.com/watch?v=k2lcLCBEuMY
Vasoline

一方では、こんなオルタナ極まりない曲もシングルカットするぐらい、過剰に自由を謳歌している。曲といいビデオといい、「なにこれ? これでいいの?」感が半端ないと思いませんか。でもそれがすごくかっこいい。だいたい最初の虫はなんなんだ。そしてこれが実によくラジオでかかっているのだ。未だにオルタナ専門ウェブラジオなんかでは定番曲の一つである。

 

https://www.youtube.com/watch?v=3OtI0V5uS80
Interstate Love Song

そして極めつけはこれ。大名曲Interstate Love Songである。のっけから「大名曲」とか書いちまったらまったく説得力がなくなるだろうと自分でも思うのだけど、その良さを言葉で説明しようとすると、とたんにただの地味な曲になってしまう。ロック・ミュージックにおいて「なんとなく良い」という第六感的輝きをもたらすエーテルがぎっしりと詰まった曲だと思う。こればっかりは聞いてわからない人には説明しようがない(当たり前か)。ロック・カルテットという芸術形式の長い歴史が生み出した作品群のなかでも、最高のものの一つだ。PVも、全体としてはリラックスした雰囲気でありながら、なんか鼻の伸びる無声映画みたいなのが入ってたりブリーチバイパスの効いた絵柄だったりとクールなスパイスが効いている。虫とか出てこなくて本当に良かった。余談だけど、このPVの後半で出てくる、ハットを被ってピンク色のファーをつけたウェイランドのイメージが、後にhideのファッションに引用されている(と思う)。個人的にも初めて耳コピするほど好きになった曲なので思い入れは深い。しかし改めてPVを見てると、すごく仲の良いバンドみたいで、なおさら哀しみがつのる。映像を見る限りライヴでもそうだったんだけど、おっさん同士でほっぺにチューしすぎである。アメリカのロック・ミュージシャンとはかくも頻繁にほっぺにチューするものなのか。ジョナサンがフィールディのほっぺにチューしてるとこなんか見たことないけどな……。それともSTPとはほっぺにチューしたくなる音楽なのか。ドライブデートに最適ですね。ところでおっさんとか言っちゃったけど、今の僕はこの時のこの人たちより年上である。ええい、そんなことはどうでもよろしい。この曲の素晴らしさを言葉で表現できそうにないからせめてパラグラフの厚みで表現しようとしたけど、こんな無意味なことばかり書いていては逆効果になりかねない。それにしてもほんといい曲ですよねこれ。好き。

だがそんな幸せそうなPVの一方で、彼らのサクセス・ストーリーにも、徐々に暗雲が広がり始めていた。ウェイランドの素行不良と、それに伴うメンバーとの軋轢。問題が表面化するのは、次のアルバムの製作時のことである。

 

(つづく)