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日々是推敲

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(後編)

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(前編) - TBLG

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(中編) - TBLG

の続き。

(3)普及帯でのいくつかの変更

現行シングルモルトと鶴の終売に比べればインパクトは小さいが、日常への影響は大きい普及価格帯での変更について。ざっくりまとめると、ブラックニッカへの(さらなる)資源集中、および(原酒としての)カフェモルトの減産、といった方針が見て取れる。

 

ブラックニッカ・シリーズ

ブラックニッカ・シリーズは今年唯一全面的に値上げのなかったブランドで、8年が終売になる一方でいち早く新商品(ディープブレンド)が投入されるという、ニッカ普及帯のメインブランドにふさわしい厚遇が施されている。最廉価でニッカへの(あるいはウィスキーへの)入口となるクリアがあり、ブラックニッカの原点としてのスペシャルがあり、その両脇から華やかで飲みやすいリッチブレンド、よりスモーキーでニッカ沼への(あるいはウィスキー沼への)導線となるディープブレンドが両脇から支える、という布陣になっている。なんとも合理的という感じがする。

新作のディープブレンドについては、低価格帯としては久しぶりにピーティ寄りのブレンドで、スペシャルに傾向が似ているものの、押し寄せるような甘みを抑えつつ長いラストでゆっくり楽しめる、ニッカ新時代のスモーキー・サイドを支える一作、という仕上がりになっていると思う。ラベルがダメなパワポみたいなのが残念ではあるけど。金色のローリー卿はまぁいいとして、なにあの安っぽいグラデーションと後ろの変形「OLD」と何かの45周年だと誤認させたいみたいな度数表記……。要素多すぎて渋滞してるよ。

これもまた勝手な想像ですが、比較的歴史の長いクリアと、原作に近いスペシャルは今後も定点として置き続け、◯◯ブレンド、と冠された最近のものについては、利用可能な原酒や市場の動向に応じて速やかに変更出来る体勢にして、柔軟に対応していく、という戦略が垣間見える布陣であるように思う。こんな分析書いて、あとであっさりスペシャルが終売になったりしたら恥ずかしい気もするけど……まさかディープブレンドはスペシャルの後継じゃないよな……まぁ消さないでおきます。

ブラックニッカ8年の終売については、言うまでもないけど長期熟成原酒の温存のためだろう。今8年ものを作るには、東京オリンピックの時期の12年物の原酒を使うことになる……と考えると、少しでも温存しておくのが上策という気が部外者ながらしてくる。8年は2002年発売の比較的新しい(今回終売になるブレンデッドではもっとも新参)商品で、クリアブレンド(当時)のような飲みやすさを保ちつつ華やかな甘み・香りと熟成感を付加した、スモーキーなスペシャルとは異なる性格の兄弟酒、という立ち位置だった。ある意味キャラかぶりの後輩ことリッチブレンドがクリア並みの活躍をしていく中で、ひっそりと売り続けられていた8年も、ここにきてついに役目を終える、といった感じだろうか。お疲れ様でした。

 

「裏の顔」たち

ブラックニッカ・シリーズがニッカ普及価格帯の表の顔だとするなら、長年地道に飲み継がれてきたハイニッカ、オールモルトモルトクラブには裏の顔、前線をピリッと締めるベテラン兵という趣がある。こちらについてはハイニッカ、オールモルトは20%ほど値上げの上継続、モルトクラブは終売ということになった。

ハイニッカは原作が1964年発売、現行品のデラックスは84年発売という、G&Gが終売になる今となっては現存最古(ブラックニッカスペシャルは1985年)のブレンドといえる。といってもここしばらくは、よほど品揃えの良い店でも業務もしくはヘヴィ・リピーター向けの4Lペットがあるだけということが多かった。竹鶴政孝が晩酌に用いていたとか、新川川の水で割ったハイニッカを飲んで宮城峡蒸留所の立地を決めたとか(訂正:ブラックニッカだそうです)、伝説的なエピソードは伝え聞いていても、なかなか手に入らない一品だったのだ。

しかし昨年から、「マッサン」効果で竹鶴本人に注目が集まったこともあってか、720 mLの通常ボトルをその辺のスーパーで見かけることも多くなった(うちの近所のサツドラにさえある)。あるいは単に「初号ハイニッカ復刻版」で宣伝コストをかけるから、そのアフターフォロー向けに拡販・継続しているだけなのかもしれないけど。ドラマの年代に合わせて2級酒の復刻版を出すなら丸びんニッキーじゃないのか、みたいな疑問はヤボである。グレーン主体のさっぱりした飲みくちでありながら、芯にはふくよか、おだやか寄りな性格のモルト原酒をしっかり感じる味で、今なお多数の新たなリピーターを集める実力は十分あると個人的には思う。大瓶がなくなるのは残念だけど、多少高くなっても売り続けるという判断には感謝しかない。ありがとうニッカ。

オールモルトは1990年発売、製法としてはグレーン・ウィスキーでありながら原料はモルト、という変わり種「カフェモルト」をブレンドに加える、「オールモルト製法」という新機軸を打ち出した、珍しくニッカの前衛性が光る一品である。高級酒としてのシングルモルト、ピュアモルトの流行によって「原材料、モルト」という表記に高い付加価値があったわけで、当時の広告では「ぜいたくな」製法という触れ込みで、味としてもギリギリまでピュアモルト(ブラック・レッド)に寄せた印象のあるオールモルトは、伝え聞いたところによると、「女房を酔わせる」という特殊技術によって、90年代の家庭向けウィスキー戦線にあって「角軍」や「だるま軍」を向こうに回して華々しい戦果を挙げた伝説の部隊ということである。モルトクラブはその5年後に発売されたいわば弟分で、モルト原酒(ややこしいけど、ポットスチルの方)の割合を減らしてコストを下げたもの。「ハイニッカ」のオールモルト製法バージョンといった立ち位置の商品である。

日本のウィスキー製造各社は、原料であるモルト(乾燥済み発芽大麦)をスコットランドの製麦会社からの輸入に頼っている。円安の進行によって原料コストが上昇する中、もともと高価なモルト原料を、「モルトの香りを残したグレーン・ウィスキー」の製造に用いることは従来よりずっとぜいたくになっているわけで、カフェモルト原酒を必要とする製品ラインナップは大きく値上げするか、もしくは削減、というのはやむをえないところだろう。もともと高価格帯の伊達、カフェモルト(ややこしいけど商品の方)は値上げの上温存、普及帯(というにはちょっと高くなるけど)にはオールモルトを残し、最廉価でありながら若いカフェモルト原酒を多く使用するモルトクラブを終売としていることには、カフェモルト原酒の減産は避けられないができるかぎり維持しよう、という意地が感じられる。

 

食中酒路線は撤退なのか?

もう一点気になる変化を挙げておくと、大瓶の大幅な削減が行われている。商品によって用意されたサイズはまちまちだが、現行ではブラックニッカスペシャル、オールモルト、ハイニッカ、モルトクラブにあるダブルサイズ以上のボトルがすべて終売になる。クリアの大瓶各サイズと、リッチブレンドの4Lは継続される。現在では業務用ニッカはほぼクリアへの移行が済んでいると思われるので、消費シーン的にビールや日本酒や焼酎との喰い合いが激しい、食中酒路線のハイニッカ、モルトクラブは飲食店ではお役御免ということなのかもしれない(モルトクラブは完全終売ですが)。ボトリング設備の稼働が、もっとも需要のあるブラックニッカ・シリーズだけで手一杯、という事情もありそうである。

ただ食中酒路線(といっても、私が勝手に言ってるだけなんですが)のウィスキーとして、クリアやリッチブレンドに、ハイニッカやモルトクラブの代わりが務まるかというとやや疑問がある。

というのも、ブラックニッカ・シリーズは、飲みやすさを重視しているクリアやリッチブレンドにあっても、硬質ともいえるダークなコゲ香がシグネチャーとして強めに維持されているブランドであると思うのだ。これはおそらくニッカならではの石炭直火蒸留に由来するもので、ニッカの独自性というか、今となっては再編・合理化の時期を経た本場スコッチよりも古式ゆかしい製法を維持しているという、余市蒸留所の魂を伝える香味である。だからこそブラックがニッカ普及帯の主力製品にふさわしいわけだが、反面、「ハイボールで味の濃い料理と合わせる」といったシーンでない限り料理との相乗効果を生み出しにくい。合うのは焼き肉、中華、エスニック、あるいはなんかよくわからない創作料理、といった世界観である。ハイニッカ通常ボトルの再普及という布石は残しているものの、和食の伴奏としてのウィスキーはサントリーに再度明け渡す形での撤退、みたいな雰囲気になってしまっていて残念である。まぁ今さら食中酒=和食に合うもの、という認識も前時代的な気もするし、住み分けといってしまえばそれまでだけど、ライバルというの(略

 

ハイニッカ礼賛

以上のようなわけで、当ブログではハイニッカを応援しています。「幻のボトル」だった頃にはどうしても、通好みという評判の一方で、伝説が先行してるだけで味としては旧二級なんでしょ? といった見下げたイメージを持たれがちだったが、去年からの再普及で大幅に払拭されたと思う。今後は、ブラックニッカ・シリーズの守備範囲外を引き受けるシリーズ展開もアリなんじゃないかとすら思う。最後にハイニッカへの賛美を思うさま謳いあげてこの稿を終えます。

ハイニッカのボトルデザインはレトロかつシンプルで、文庫で言えば岩波文庫、スニーカーで言えばオニツカタイガー的にかわいいし、ノームコア層が夕食の締めから食後のリラックスタイムにかけて少量飲むといったデイリーユースに似つかわしいという気がする。一度ハイニッカを愛好するようになると、一足飛びに竹鶴やシングルモルトを試した場合なんかにも、高級酒が持つ長期熟成ならではの懐深いあたたかみが、ハイニッカの芯にあるおだやかなモルト原酒の味わいから地続きであり、長い時間をかけて得られるものであると了解しやすいと思われ、初心者のエスコートという観点からも優秀なブレンドである。

また、上述したブラックニッカ・シリーズ特有のダークなコゲ香が不要な新しいブレンドを普及価格帯に投入する際には、ハイニッカ・シリーズの限定品として展開するのが合理的であると私は考える。なんとなれば終売になったモルトクラブなんかも、「冬季限定 ハイニッカ・オールモルト・エディション」みたいな感じで復活させてくれたら、出てる間は買う。例えば新しい栽培種の大麦やカスクの材を試すとして、それらによる味わいの差に目を向けやすいブレンドにするには、ブラックニッカ的な味にしづらいこともあるだろうし、かといって新たなブランド名を立ち上げるほどのコストもかけられない。そんな時にはハイニッカのバリエーションとして出すのが便利だと思うわけである。現行品と、限定品のエディションを並べて展開することで、多くの人が飲み比べて製法による違いを確認し、全国流通規模で原酒作りのロマンを共有するという楽しみ方を広めることができるのではないか。それによって若い原酒の消費ベースを押し上げて、ブーム以降の経営に余裕を持たせることができ、後の長期熟成原酒の確保に貢献できるのではないか。この仕事は、最小限のニッカ性を突き詰めて成立したハイニッカだからこそできるのだ。ちょっと激しい妄想をしておくと、新入社員の頃に出たハイニッカのとあるエディションで親しんだ香りと、15年後にシングルモルトの一部として再会できる、なんてのもありうるのだ。とてもロマンチックだ。

たとえば昨今の異常気象の時代にあって、全体的な農産物の供給量を維持するため、様々な農産物で栽培品種の多様化の試み(新開発の品種のみならず、古代種の復活も含めて)が進められており、これらを活用してより良いウィスキーを作り続けるという新たな競争が始まりつつある。時代の要請とはいえ、ともすれば正統なウィスキー作りの破壊と見られかねないこれらの試みにあたって、言外に旧時代との連続性、伝統との調和を示すことの出来るハイニッカというブランドネームの活用は有利に働くのではないかと考える。他にも画期的な特徴を携えた新規メーカーの参入や、常にある消費者の嗜好の変遷など、ウィスキーをめぐるどんな環境の変化に直面しても、「ハイハイ」と気安い挨拶で対応し、楽しみながら試行錯誤して、ウィスキーづくりに組み込んでいける、という自信を表現するのにうってつけではないかと思うのだ。エントリークラスとしての親しみやすさを表現すると同時に、ニッカに伏流する進取の気性をも表現するブランドネームとして、これからも長く活躍していってほしい。

 

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追記(7/4)

宮城峡蒸留所の建設地選定の際、竹鶴政孝が新川川の水で割って飲んで適地との確信を得たというウィスキーは、ハイニッカではなくてブラックニッカでした。公式サイトにも記述があるので間違いはないと思われる。謹んで訂正いたします。

こうなるとハイニッカ説についても出処の検討がしたくなってくる。いくつかのブログ(特に名を秘す)でこの話に触れているところをチェックすると、半々か、訂正含めてブラックニッカ説が多いという感じであって、その由来を辿ることは出来そうにない感じなので、そのうち文献を漁る必要がある。そこまでするかという感じでもあるけど。

 

ニッカ第二の蒸留所誕生秘話 - ニッカウヰスキー公式サイト

宮城峡蒸溜所の紹介「蒸溜所建設こぼれ話」 | NIKKA WHISKY