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日々是推敲

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(中編)

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(前編) - TBLG

の続き。

(2)高級ブレンデッドの一本化

 

リストで次に目立つ変化は、G&G、ザ・ブレンド、鶴17年、といった、ブレンデッド・ウィスキーの高級商品が終売になっている点だ。普及価格帯(現行品で1500円くらいまで)を上回るブレンデッドは、スーパーニッカとフロム・ザ・バレル、そして昨年発売のザ・ニッカ12年を残し、半数が整理されることになる。いままでが乱立気味だったんであって、半分にしてちょうどいいくらいだ、という雑な感想もつい抱いてしまうけど、まあとにかくそれぞれ見ていこう。

G&Gは、今でこそ2000円弱の手に取りやすい商品だが、スーパーニッカ以前のフラッグシップであったゴールドニッカの流れを汲む、余市モルト主体の特級ウィスキーの味わいを今に伝える銘柄である。しかし、発表年代のイメージ的にスーパーニッカとかぶっているきらいはあるし(「60年代特級組」、とでも言おうか)、なにしろ向こうさんは「マッサン」効果で復刻版まで出て知名度がグンと上昇してるので、「マッサン」以前からレアキャラ化が著しかったG&Gが終売というのは、まぁやむを得ないという気はする。みんな余市モルトをガツンとキメたいときにはシングルモルトを飲んでたし。もちろん、大昔のブレンドを細々と存続させるのもニッカの美点の一つではあるのだけど(Fマウントを堅持するニコンみたいですよね)、そうも言ってられない状況なのだろう。

ザ・ブレンドは、1986年の発表当時は「鶴」に次ぐ二番手の高級ウィスキーで、84年のピュアモルト・ブラック/レッド、85年のフロム・ザ・バレルに続く、これも勝手に名付けるなら「80年代シンプル・ボトル組」の三男である。発売当時こそフロム・ザ・バレルの倍の価格(5000円)の高級酒だったが、今は徐々に下がっておよそ3000円に落ち着いている。しかしこれも、G&Gほどではないにせよレアキャラ化が進んでいたし、さらにボトルの見た目的にかぶりつつも価格的には弟分だったはずのフロム・ザ・バレルが、異常に華々しい受賞歴を持つ超ハイコスパの国際的人気商品に育ってしまった今となっては、これまた終売やむなしという気がする。

一方、これは思い切ったことをなさいましたな、というのが鶴17年の終売である。初代「鶴」の発売は1976年のことで、79年に逝去した竹鶴政孝のブレンダーとしての最後の作品と言われている。愛妻リタへの追悼を込めてブレンドに打ち込んだスーパーニッカ、晩酌に常飲していたハイニッカに並ぶ、大げさに言えば「三大・竹鶴伝説を今に伝えるボトル」という感じで、まぁ実際はそんなに飲む機会がない人であっても、ニッカファンの心にしっかりと刻み込まれた銘柄なわけである。こういう判断は、経営陣やブレンダー・チームにとってもやはり断腸の思いなのではないかと想像する。机くらいは叩いているかもしれない。「きのう夢枕にさ……」みたいな話もあったのかもしれない。

「鶴」については、レギュラーラインナップから消えたあとも、高級ブレンデッドの周年記念ボトルとして、それこそ2019年の竹鶴政孝没後40年あたりで出して、ブランドネームを維持して欲しいという気持ちもある。永遠の記念碑みたいな感じで。後発の人気者である竹鶴ピュアモルトとまぎらわしいのが難点といえば難点なので、やめたくなる気持ちもわからないではないですが……。

現時点での情報では、今回の終売・値上げによって、ニッカの高級ブレンデッドは2500円ほどのフロム・ザ・バレルとスーパーニッカ、6000円ほどのザ・ニッカ12年、の三種類になる。永遠のライバルことキヤノン……じゃなくてサントリーの高級ブレンデッドは、リザーブ、ロイヤルの上に、NAから30年(!)まで取り揃えた「響」シリーズという統一感のあるラインナップになっていて、これはやはりわかりやすい。わかりやすくゴージャスである。「ジャパニーズ・ゴージャス」と呼んであげたいくらいだ。すでに12年もの同士で切り結んでいる状態であることを考えると、ザ・ニッカも順次NA、17年、21年と揃えていき、高級ブレンデッドとしてブランドを確立していってほしいところである。

原酒不足の状況から言って、鶴17年の後継といえるザ・ニッカ17年、21年をすぐに出すのは難しいと思われる。来年くらいまでに急いで出しても数量限定、ということになりそうである。一方で若い方は、これは全くの妄想なんだけど、たとえば世評の高かった初号スーパーニッカ復刻版に近い味のものを一つの定点として、4000円弱くらいでザ・ニッカNAとして普及させることが出来れば、いまいち定着しているとは言いがたいザ・ニッカが、ニッカ新世代の旗手としてファンに長く愛されるブランドに成長するための、最良の礎になるんじゃないかと思う。もちろん全く新しいザ・ニッカNAというのもそれはそれで期待をそそられる。ザ・ニッカの冒険はこれからなんである。

ヴァテッド・モルトの竹鶴シリーズを主力高級酒に据える傍らで、わざわざ高級ブレンデッドを拡充することに、どのくらいリソースを割けるかというと、悩ましいところではある。今の商環境では、モルト原酒に余裕ができたら、シングルモルトの復活に先に使うのが当然と判断されるだろう。いましばらくはザ・ニッカ12年の一本立ちが続きそうな気もする。

しかし今回のシングルモルト終売に対する反応を見ていて思ったのだけど、やはりシングルモルト人気の定着とハイボール・ブームの合わせ技というか、ブレンデッド・ウィスキー=割って飲むための安物という、誤解を含む悪いイメージがついてしまっているのはなんともやりきれない。やりきれなくてモルトクラブも喉を通らない(二杯目)。この話はかなり長い脱線になるけど、ちょっとノッてきたので書いてみることにする。

ニッカ大フィーバーを牽引した「マッサン」でも、(わかりやすさに配慮する必要があったとはいえ)グレーン・ウィスキーのグの字もろくに出てこない、ポットスチルから出てきたスモーキーなものだけがウィスキーだと言わんばかりの、やや誤解を招く構成だった。しかし実際の竹鶴は、モルトだけに生涯こだわり続けたわけではない。ドラマでは終着点であるスーパーニッカ(劇中のスーパーエリー)の発売後、当時の西宮工場に、クラシカルな連続蒸留器であるカフェ式蒸留器(後に宮城峡に移設)を導入し、より本格的なスコッチ・スタイルの(つまりグレーン・ウィスキーにも本場と同じ製法を採用した)ブレンデッド・ウィスキーの追求に邁進している。

シングルモルトの世界的な普及というのは竹鶴の生きた時代より後の(1980年代以降の)、グローバルな情報過多の時代の現象であって、蒸留所のある町に住んでいるのでもない限り、スコッチの王道は今も昔もブレンデッドなのだ。

ブレンデッドはその製法上、大量に必要な普及価格帯の商品を生産しやすく、定義的に量の限られた原酒を用いる必要があるシングルモルトに比べて、基本的に廉価になっているのは事実だ。加えて、ブレンデッドの発明によってウィスキーが世界的に普及する前から存在していたのも、今で言うシングルモルトなわけで、「ウィスキーの原点」と形容されるのは仕方ないところがある。しかし、それをもってブレンデッド・ウィスキーというカテゴリー自体を、「原点にして高級品であるシングルモルトが手に取れない人のための、薄めた二級品」のように扱うのは、明白な誤りである。

残念ながら近頃では、ウィスキーファンとはシングルモルトを嗜む者のことで、グレーンなんてのは水増し用の醸造アルコールをちょっと格好つけて言ったもの、ぐらいに思われているんじゃないかと疑いたくなるような、ひどい意見を耳にすることがある。この狂信とも言うべきシングルモルト優位の風潮には、いささか眼高「舌」低の趣があると私は思う。ブレンドにおける原酒選択の幅が狭いシングルモルトは、その特徴の多様さ、地物感を味覚的な冒険の対象としたり、蒸留所の巡礼を旅行のテーマ(ブレンデッドより「旅をしない」傾向もシングルモルトの特徴のひとつである)にするといった、よりディープな、マニアックな楽しみ方の出来るカテゴリーであることは間違いない。しかし少なくとも、一人の人間として酒を飲むという行為において、このようなカテゴリーによって本質的な優劣が生じるとは私は思わない。それは純粋に製法の違い、目指すものの違いであって、「同じものを目指したけれど出来上がりに差がある」わけでは決してない。

ブレンデッド・ウィスキーの価値を証明し続けるためにも、竹鶴時代の高級ブレンデッドをさらに発展させたと認められるような、今のニッカに相応しいブレンデッドのフラッグシップが必要とされている。こういった文脈において、私はザ・ニッカのシリーズ展開に大きな期待をよせている。この領域ではサントリーが、「響」の整然とした商品構成と高いクオリティ、30年物までラインナップするという破格の厚遇まで含めて、何歩も先を行っているので、すでに人気の確立した竹鶴ピュアモルトがあるのにわざわざ追随することないんじゃないか、ニッカはピュアモルトサントリーはブレンデッド、という住み分けも可能なのではないか、むしろそっちのほうが、両社のイメージから考えても自然なのではないか……という弱気な考えも頭をよぎる。だがしかし、そんなわけにはいかないだろうと私は思う。ライバルというのはそんなもんじゃないだろうと(部外者だけど)。今はまだ出来なくとも、長期的には、ザ・ニッカを響の対抗ブランドに育て上げていってほしい。それが出来ないなら、あの有名なカフェ式蒸留器の逸話ですら、安っぽい宣伝文句になりかねないではないか。繰り返しになるけど、ザ・ニッカの冒険はこれからだ!

「これからだ!」で終わるのも問題ある気がするので、些細な事ながら付け加えておくと、玉山鉄二さんにはディープブレンドだけではなく、「ザ・ニッカ」シリーズのイメージキャラクターも務めてほしいと個人的には思う。ドラマでは概ね「モルトウィスキーこそジャスティス」みたいな調子だったけど、ほんとはブレンデッドだって大事にしてたんやで、というのが伝わると思うから。それを伝えてなんかいいことあんのかよと言われても特にないというか、私が「この広告いいなあ」と思うくらいなんですが……。竹鶴や余市の宣伝をするにはあざとすぎるというのもある。ブレンデッドならギリギリセーフ感ある。

 

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