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日々是推敲

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(前編)

ニッカのウィスキーが8月末までに続々と終売になる。原酒の不足に対応すべく調整を行うということだが、現行のシングルモルトのラインナップが全消しという、「まじかよ」としか言いようのない物凄い情報が流れて、先月末ぐらいにえらい騒ぎになっていた。しかしまぁ新商品の情報が出揃わないことにはこれ以上騒いでもしょうがないよね、という感じで、がっかり半分期待半分のまま、ウィスキークラスタの話題としては一段落していた。ところが6月も半ばになって、「余市」終売にクローズアップしたニュースが続々と報じられている。


シングルモルト余市」8月出荷終了 ニッカ、人気で原酒不足 ブランドは継続
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150610-00010001-doshin-bus_all

で、反応を見てると、とんでもない誤解もチラホラあってがっかりする。この記事に引用されてるツイートとか。

「残念すぎる…」ニッカウィスキー”余市”の販売終了に悲鳴が殺到
http://irorio.jp/nagasawamaki/20150610/236032/

まぁそれはともかく、このせっかくの大変革期に乗っかって楽しまない手はないと思うので、刷新後のラインナップ構成について、期待を交えつつ自分なりにまとめておこうと思う。終売される商品については下記ブログにまとめられているものを参照した。公式リリースではないが、販売店向けの案内が元になっている。

ジャパニーズ・ウイスキーの終売・代替情報
(H27夏の国内ウイスキー情勢/サントリー・ニッカ・マルスなど)
http://kamode.exblog.jp/23616575

ニッカウイスキーの9月1日以降のラインナップ考察(値上げ・終売情報まとめ)
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1028929178.html

 

 

(1)シングルモルトの大整理

 

ニッカのシングルモルトの現行品は、二つある蒸留所(余市、宮城峡)ごとに、


  ノンエイジ(以下NA)、10年、12年、15年、(余市のみ)20年


という構成になっている。これが一つ残らず終売ということになったので、当然ウィスキーファンは「ニッカはシングルモルトから撤退するのか!?」「いや、ブランド自体は存続するらしいぞ!!」といった感じで、蜂の巣をつついたような騒ぎになるわけである。私も正直あせった。ぶん!ぶんぶんぶんぶん!

しかし冷静になって(巣に戻って)考えてみると、そもそもこの商品構成、輸入物やサントリーシングルモルトと比較すると、明らかにニッカは10年前後のラインナップが厚い。国内消費の落ちきった90年代〜2000年代に作った原酒を、比較的廉価(というかほとんどバーゲンプライス)で積極的に売り出すための商品構成だったというのがいわば定説である。しかし2009年頃からのハイボールブームと、昨年の大フィーバーによって、いつの間にか需要増に耐え切れなくなっていたのだ。ちなみにサントリーは、2012年度までで山崎、白州10年を終売し、年度初めに出したNAと約一年の併存期間を置いて交替している。さすが時宜を得た撤退。クールだ。

よそのことはともかく、このままのラインナップで出し続ければ、数年後の商品構成に差し障る。たとえば、大きな宣伝効果が見込まれる東京オリンピックの時点で、12年、17年、20年を作れる原酒がほぼ無くてニッカしょんぼり、という状況すら予想される。したらちょっと絞るべ(北海道弁)、といった判断がなされるのはごく真っ当であると思う。昨年竹鶴12年を終売にするときには、半年前に代替品(竹鶴NA)を出すという移行策がちゃんとできていたのに、今回は突然のシングルモルト全休という、ニッカウィスキー全体のブランドイメージを損ないかねない異常事態を招いているあたり、慌てぶりが伺えるというものである。ニッカというのはつい出しきっちゃうというか、サービスし過ぎちゃうというか、要するに不器用なんである。

そんな感じでうっかりやりすぎがちなニッカなので、長期熟成ものについても、モルト原酒は各年代満遍なく残量が心もとなくなっている状況、というのは、かねてより噂されてきた。これが事実通りだとすれば、世評も高くネームバリューもあり、比較的多い量を用意しやすい竹鶴ピュアモルトに最高級クラスを一時的に任せて、シングルモルトのバリエーションを一度バッサリ切り捨てるというのは、やはりほとんど不可抗力、樽のお導きみたいなものであろう。需要拡大期にウィスキー会社の舵を握るのは樽なのだ。カスクス・トゥ・ルール・ゼム・オール。

しかし残念なことに、後継品の公開より先に終売の情報が流れてしまったせいで(いっそ空白期間を設ける予定なのかもしれないけど)、「名前だけ残してブレンデッドにするんじゃないか」などという無理解も甚だしいコメントが散見されて私は無念である。ハイニッカも喉を通らないくらい落ち込んでいる。いくらなんでもそりゃないぜ。蒸溜所の名前を冠したシングルモルトというのは業界の不文律みたいなもので、それを度外視するなんてとんでもない。一度シングルモルトとして定着した名称を、ブレンデッドにしれっと転用して売りだすなんてのは、うちの会社の能書きにある分類は嘘かもしれませんよ……、と自ら宣伝するようなもので、ニッカの築き上げた信用は地に落ちてしまう。やるはずがないのだ。なんかもうすっごいギタギタのボロクソに言われると思う。もしやったらね。

というわけであり得るのは、「シングルモルト」の定義を一切外すことなく、完全に蒸溜所限定の少量生産にするか、NAものの原酒をベースにした一本に絞るか、あるいはそれに加えて、残っている原酒の許す限り高級路線を追求したハイエンド版を(たとえば21年とか、あるいは西暦表記を復活させるか)出す、といった商品構成になると思われる。つまり現行の5ライン(宮城峡は4ライン)から1-2ラインへと集中をかけるわけだ。価格帯としては前者がフルボトルで3000円台、後者が20000円台前半くらいだろうか。その間の価格帯は竹鶴17年(値上げ後7000円)、21年(同15000円)をどうぞ、ということになる。もちろん原酒の残存状況なんか知れるはずもない、ただのファンの勝手な想像ですが。

不思議なのはピュアモルトシリーズがホワイトのみ終売で、他は値上げしつつも販売継続していることである。余市主体のブラック、宮城峡主体のレッド、ということでお馴染みの、竹鶴シリーズより古いピュアモルト(ヴァテッド・モルト)製品だが、素人考えだとシングルモルト余市NA、宮城峡NAと使用原酒がかぶるはずだし、今やネームバリューで負けている状況で、シングルモルトを先に終売にするというのは理にかなっていないように思える。まぁ単にあんまり出ないから細々と続けられるということかもしれないし、製法的にシングルモルトよりは量を作りやすいというのもあるし、実は原酒がかぶっていないのかもしれない。

いずれにせよ、現行の余市NA、宮城峡NAを愛好していた方にとっては、新しいシングルモルトが出るまでの、あるいはリリース後にも安価な代替品として、ピュアモルトのブラック、レッドは大事な一品になる。「アイラライクで強烈なホワイトはともかく、これだけシングルモルトが普及してるのに、ブラックとレッドを継続してる意味はあんのかね」みたいなことを思っていた人は、今のうちに謝って仲直りしておくように。ほんとすみませんでした。

 

6/15 追記

新しいシングルモルトニュースリリースが出た。価格はオープンとなっているが、報じられたところによると700 mLで4200円ということで、予想してたよりちょっと高めの価格設定だった。これまで通例としてサントリーの出す同じクラスのものより若干安い値付けで売ってきたので、おそらく3000円台、それも後半、と思っていたのだけど、山崎NA、白州NAにピッタリ合わせてきたことになる。店頭でどうなるかはまだわからないけど、あるいは今までと同じようにもっとも数が並んでるのは500 mLで、それだと3000円前後でちょっと安く見える、という雰囲気になるのかもしれない。

 

続き

ニッカの商品再編に見る、過去と未来(中編) - TBLG

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